先にかいたコラムで、言葉の暴力について書いたが、実際経験したものをご紹介しようと思う。
この仕事につく前、私はある外資系の会社に勤めていた。
その社長というのヨーロッパ某国の人で、それこそ独裁者のような人だった
秘書はもって半年。
みなやめてしまう。
私の前任者も半年持たなかったらしい。
一体、彼の希望に沿うパーフェクトなセクレタリーがこの世に
存在するのだろうか。おそらく存在するまい。
秘書を非難してセクハラ行為を繰り返し(こういう時には『自分はガイジンですから分かりません』という手を使う)
秘書をとっかえひっかえするのである。
その前任者は、入社してすぐに、昼休み、誰もいないオフィスで「いい秘書は上司と一緒に出張に行ってベッドの世話もするもんだ」と、言われ、レイプされかかり、それから恐怖の余り、腕が腱鞘炎になって、やめてしまったという。
まだ、二十代前半の女性にとってはとても恐ろしいことだっただろう。安い年俸で怒鳴られ、人格を否定されたあげくに
上司に性的な関係を迫られ、それを拒否すると、今度は猛烈な苛めにあう。
ここで問題になるのが、
他の男性社員の態度である。
この場でボスに逆らうと、クビを切られるので、女性社員がSOSを出していても、助ける術がない。同僚の女性を助けたばかりに、自分の職を失うよりは、女性の受難を見て見ぬ振りしたほうが楽だからだ。
さて、私がその会社に入って、それこそ受けた言葉の暴力はとても凄いモノだった。
タイプミス一つで「オマエに失望した」
社長の知り合いに子供が生まれたといって「お祝いにお金を送れ」との命をうけ、実行すると「誰がお金だ、花を贈れといっただろう」と、言われる。書くと長くなるのでやめるが、
そのボスの気に入るセクレタリーはおそらくこの世にはいまい。
安い給料で何でもできてパーフェクトで、セックスのお相手までするような秘書はまずいないだろう。
他の男性社員はそれを見て図に乗る
「天気が悪いのも景気が悪いのも全部オマエのせいだ」と言われ続けたことがある。
立ち仕事で足が浮腫むのでデスクのしたに置いていた、足裏刺激のボードにまでケチをつけられたことがある。
これは本当に言葉の暴力だ。
人数の少ない会社だったが、社長の横暴ぶりが、他の社員をびくびくさせ、そのイライラのはけクチとなってしまったのだから。
天気が悪いのも、景気が悪いのも何故わたしのせいなのだろう。
それは八つ当たりというものだ。
とっても理不尽ではないか
世の中にこんな人がいて、社会的なポジションについているというのもよく分からなかった。また、50を越したオヤジが20代だった私を、ストレスのはけ口としてターゲットに選ぶとはまったく予想していなかった。
この人(日本人)は、私の父が亡くなった時に、あなたはいつも私に対してひどい態度をとるから、来なくていい(と言った私も結構強烈だったかもしれない)と正直に言ったら「会社の体裁があるから仕方ない」と言われた。
その時「ああ、こういう人もいるんだ」
体裁で大事な人の葬儀には出て欲しくない。心からそう思った。
塩でもかけてやろうかと思ったくらいだ。
また、この人は、私がその社長に襲われかけたことがある時
(本当に襲われそうになった)
どうしたらいいのか、ちょっと相談したら「オマエが誘ったんだろう」と言われた。
これはもう相談した私もバカだったのだが、こういう言葉の暴力がはびこっているところで二年近くも仕事をしたのがとっても不思議だった。
肉体的な暴力は勿論よくない。
しかし、言葉の暴力というものはもっと忘れられないものなのだ。
許限度を超すと、どうにもならなくなる。
からだの許限度も同じ。それを越すとどうにもならなくなる。
ちなみに後日談があり、私の父がなくなったのが年末で、その社長の子供が生まれたのも年末だった。
他の社員は年明けに、「ベイビーが生まれておめでとうございます」と、ゴマをすっていたが、「お父さんを亡くして大変だったね」という人は誰もいなかった。まあ、そういう人達にねぎらいの言葉を期待していたわけではなかったが。
なんだか、情けない。
とにかく、我慢しちゃだめだ。
心が壊れると身体も壊れてしまう。