操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

講習記録 動診の選択

この講習は毎週土曜、あるいは隔週日曜に開催されている、東京操体法研究会の臨床向け講座と特別講習(特講)をメモ&加工したものです。



一年、あるいは九ヶ月の操体法の講習会も、あと四分の一、あるいはあと数ヶ月となった。前回の臨床講座は、参加者があと三ヶ月やりたい、という希望で、一年続いた。

遠くは愛知県から毎週土曜、一年間講習に通ったというツワモノもいるし、臨床講座を三回(約二年半)受講したというツワモノもいる。



さて、講習の利点は何か。勿論、最新情報に触れられるのは当たり前だが、実際生(ライブ)で見ることができるということだ。



美術品鑑賞でも宝石でもそうだが、審美眼、鑑識(?)眼を養うには、まず良質のものをよく見ることだという。最初からいいものを見ておけば、後で妙なモノを見たとき、見分けることができるからだ。



操体に限らず、芸事もそうだが、まず模範演技や最上級にふれて、目を肥やすのはいい練習になる。



講習。



受講生達の心配。

本当に残った時間で、操体がマスターできるのだろうか?

臨床ができるようになるのだろうか?



タームは半分以上終わり、残り時間も限られてきた。

今現在講習でやっているのは、連動と介助・介入の仕方である。

「これで、臨床ができるんでしょうか。心配です」という受講生の声。



心配な気持ちは良くわかる。



「どうやって動診と操法を選んだらいいかわかりません」



というか、「動診と操法を選択する」というのは、一番重要なポイントでなのだから

じっくりやらなきゃ。



・問診、形態観察(視診)、触診

・被験者(患者)のポジショニング

・操者のポジショニング

・動診の選択(快適感覚をききわける)

 - 適切な介助・補助

 - 適切な(操者の)連動の理解

 - 適切な言葉の誘導

・操法(快適感覚を味わう)

・脱力

・脱力後の爽快感を味わう



というおおまかな過程をとることになっているが、



ご存じのように、操体では「○○疾患にはこの動診と操法」というのがあるわけではない。



なので、「腰痛にはL4(腰椎4番)をアジャストする」とか「仙腸関節を調節する」のような手順や「操法1番と5番」などのようなマニュアルが一切ない。

これは、操者(指導者)の思いこみや決めつけを廃しているからであり、患者(被験者)のアタマではなく、からだにききわけさせた動診、操法を行うからである。



操体をやるにあたって、この点の理解が一番必要だ。



操体には「治すことまで関与するな」という教えもある。

 治すのは本人の治癒力(治すちから、治せるちから)なのだから。



★殆どの治療家は「治す」ということにこだわっている。

★それも悪くはないが、操体では治すことにまで関与しない。

 スタンスが違うだけだ。





それはさておいて、今回は特別ゲストの東京操体フォーラム実行委員長、O村氏の臨床実技のデモンストレーションが行われた。



被験者は同じく東京操体フォーラム実行委員のN氏。



まず、今回は問診抜きで形態観察(視診)から入る。

私達の場合、まず着衣でも形態観察ができるように日頃から目を養っているが、これも不思議なもので、ある日突然見えるようになる。動いていても見えるようになる。多分目が鍛えられるのだと思う。もっと慣れると、動いていてもわかるようになる。



次にポジショニングを設定する。これはとても重要。



N氏は仰臥位になった。O村氏は足方に位置し(これも設定する)、

ひかがみ(膝窩)の触診を行う。右側に触れると、少し逃避反応がでる。左側は、飛び上がるような大きな逃避反応がある。



触診も、ある程度こなしていくと、指先が慣れてくるというか。

実際、痛いところ、痛くなくてもその原因となっているところに手が行く場合がある。「痛いところがわかる」という現象だ。





この時行った動診は 足関節の背屈、伏臥位での足関節の外転、頭方に位置して胸肋関節付近を撮(擦)診し、過敏なポイントに渦状波(カジョウハ)を与える。



行った動診は3つか4つ程度である。



どうしても最初の頃は、覚えた動診を全部やってみて、患者(被験者)を疲れさせてしまったりしがちだが、そんなにとっかえひっかえ動診を替えなくてもいいのである。



その次は先生がO村さんを被験者として、臨床実技を行う。



同様にポジションをきめ、形態観察をする。O村氏はサーフィンをするので、朝海に入ってきて多少からだが冷えているという。



まず被験者の足方、それも右足にポジションを設定する。被験者は仰臥下肢伸展位をとっている。



この時行ったのは、足関節の底屈による動診のみ。

しかし、底屈といっても、介助法、言葉の誘導のしかた、触れ方で全く違う感覚が生ずる。いずれの介助・動診においても快適感覚がききわけられた。



O村氏は比較的皮膚へのアプローチ(渦状波)を受けると、からだが無意識のうちに大きな動きをつけてくる場合がある。今回もそのような事象が起こった。



何度か彼が被験者になっている臨床をみたことがあるが、とても有意識で動いているとは思えない動きを見せる。前回、前々回は、からだが下に落ちるような気がすると言っていたが、今回は股関節から骨盤にかけて、内側から捻れてくるような動きが出てきたのだそうだ。



動きが止まり、彼は体幹を妙な形に捻ったまま、ゆるやかなV字バランスのような姿勢を保っている。その次に彼の口から洩れた言葉は

『からだが熱い・・・』というものだった。



朝、海に入って冷えたからだが一気に温まったのだろうか。



私は何度も見ているし、皮膚へのアプローチがこのような無意識の動きを喚起させることも知っているし、実際自分の施術中の経験、自分の経験もあるので驚いたりはしないが、このようなケースを初めて見る受講生は、目を見張っていた。



『これは、無意識の動きだから、きもちいいんだ。驚いたりしなくてもいい』



この間約30分。行った動診は足関節の底屈だけ。

(アプローチの仕方は3通り)



何も動診・操法の数が多ければ多いほど良いわけではない。

動診と介入介助の仕方が適切ならば、動診の種類は少なくて構わないし、快適感覚がききわけられるのなら、操法の回数は少なくなる。

(操法の回数の要求と、快適感覚は反比例する)