操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

料理の達人 手は小指、足は親指

自分が講師をつとめる講習で「自然体」と「手は小指」「足は親指」という話をしながら、自分でも色々動きを試してみた。

例えば、どんな動作でも小指を使うようにすると、ポジションを決めやすく、動きも能率的で美しくなる。参加者のSさんはマッサージ師だ。彼女の話を聞くと、最初、マッサージをする時先輩から形をよく注意されたという。よく言われたのが『脇をしめろ』ということで、最近やっと形がきれいになってきて、直されることも減ってきたという。しかし、やっているうちに脇が開いてきて、そうすると力で押してしまうはめになり、疲れてしまう、と話してくれた。



脇をしめる、というのは簡単だが、実はどうやってしめるのかという指導は普通してくれない。

どうやってしめるかというと、中指を中心に、小指側側(こゆびそくがわ)を使えばいいのだ。例えば指圧でも上手い人は、親指を使いながらも小指を効かせてやる。マッサージにせよ、同様である。母指を使っていても小指を効かせれば脇は自然としまるのだ。単純なことだが、『手は小指、足は親指』という

『重心安定の法則』にのっとったものだ。



次に、私が彼女の手をとって、手を内旋位にきめた。(きめる、というのは、例えば外旋をとらせる場合、感覚のききわけをとらせやすくするために、あらかじめ手を内旋位にとってから外旋させるのである)その時に操者(私)が、親指を使って介助を与えた場合、小指を使って介助を与えた場合を体感してもらった。『動きやすさが全然違う』という。親指で介助を与えると、私も辛い。ということになると、やはり小指側側を使うべきなのだ、と言うことがわかってくる。また親指で介助を与えても小指を効かせれば充分に対応できる。



それを見ていた受講生のMさんが「なるほど」と言った。

彼は中華の料理人である。

「どうしたんですか」と、聞くと、何でも中華鍋を扱う場合、自然と小指側を使う癖がついていたのだという。また、中華鍋を扱う際、親指側で柄を持つ癖を最初につけてしまうと大変なのだという。何が大変なのかというと、中華料理ではコンロにゴトク(中華鍋受け台)を置いて、その上で鍋を扱う。親指で柄を持っているとどうしても鍋が火肌から数センチ離れる癖がついてしまうらしい。数センチといっても、中華の場合、食べ物の旨味を一番引き出す温度は200度なのだそうだが、数センチ浮かせただけで温度が下がるので、料理の味が落ちるのだそうだ。そしてその癖がついてしまうと、なかなか直らないらしい。小指側で柄を保持していれば、鍋の動きはゴトクの上を前後に揺するだけで鍋は火に安定して触れており、食物の美味しさを引き出すことができるのだそうだ。



料理といえど、親指側を使うか小指側を使うかで味が大きく違ってくるのだ。これはスゴいことではないだろうか?器用不器用とか料理が上手い下手とかも小指を効かせているかが関わっているのだ。多分。



そういえば「足は拇趾(おやゆび)」という。これは内藤景代先生から聞いた話だが、ミケランジェロダビデ像

をみると、拇趾と他の四指が離れているのがわかる。つまり、拇趾の付け根でしっかり立っている姿なのだそうだ。

ダビデ像は巨人ゴリアテとの戦いに臨み、岩石を投げつけようと狙いを定めている場面を表現しているのだそうだが、何かアクションを起こす前に安定した姿勢を取っている。

あ、今思い出したが、橋本先生もどこかでダビデ像について言及されていたような気がする。