操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

どうでもいいってわけじゃない

どうでもいいわけじゃない。



驚くかもしれないが、橋本敬三先生が操体だけの臨床を始めたのは79歳(だったと記憶)という。それまで色々な方法を試したり(鍼とかもね)していたそうだ。



ヤジウマで色々やってみたが、結局操体を選択された。試行錯誤していらっしゃったわけで、多分原理は分かっていらっしゃったのだが、実際どうやるか、という事に関してはやはり歴史あり、なのだ。橋本先生にせよ、最初から完成されたパーフェクトな体系を構築されたわけではないし、ご自身も「完成された体系ではない」と書かれている。



歴史ありといえば「般若身経」も変遷している。

最初は後屈など、手を挙上したまましているし、後屈から起こすとき、首から起こすと腹の鍛錬になる、と書かれているものもある。



何度か書いているが一番最後に記されたのは「からだの設計にミスはない」に書いてある般若身経だ。

れが他と違うのは「膝の力をほっとゆるめる」と書いてある箇所であり、これがとても大切なのだ。



膝を緩めないと、足の親指の付け根に体重がかからない。



以前、ある人に

「自分は○○県の△△先生の教室に行っているが、膝を伸ばしている人もいれば、そうでない

人もいる。その人それぞれでいいんじゃない?」と言われた。

「色々な先生がいらっしゃいますから、その人なりのやり方があってもいいんじゃないですか」

と言われたこともある。



でも、どうでもいいわけじゃないと思う。



色々勉強を積まれて、訂正修正微調整をくり返して

「足は腰幅、つま先と踵は平行に、背筋は軽く伸ばして目線は正面の一点に据える。膝のちからをほっ、とゆるめる」というふうにおさまったわけだ。



そういう集大成に対して

「膝が伸びててもいいんじゃない」

とか言えるのだろうか。先にも書いたが「万病・・」の口絵をご覧になって「間違ってる」と橋本敬三先生が今先生に言われたのは多分「膝が伸びている」というところだと思う。



※膝を伸ばして立つと、体重は分散して踵にかかりやすくなる。また、膝を伸ばすと連動で肘も伸びてくる。口絵の女性は膝を伸ばしているから捻転時に手を伸ばして上に上げているのだと思う。また、「万病」が出た頃橋本敬三先生ご自身も膝を緩めるということには気づいていなかったのではないか。

私が思うに、日本全国で太極拳ブームが起こった昭和50年代あたりに、太極拳の含胸抜背(がんきょうばっぱい)に影響を受けたのではないかと思う。そこで、「膝の力をほっとゆるめて」という一文が追加されたのではないか。



つたない例で申し訳ないが、私が昔書いた「ふわ、くにゃ、すとん、操体法」という本がある。当時の無学で結構初歩的な間違いが何カ所かあるのでHPで修正版を出しているが、未だにその修正版を読まずして「あの本はいいですねぇ」と言ってくださる方もいる。(言っておくがイラストと編集は素晴らしい)

しかし、訂正が必要なものを出したというのは筆者にとっては非常にハズカシイことなのだ。



で、「あの本はいいですねぇ」と言われると、穴があったら入りたいとか思ってしまうのだ。(重版されていないので、改訂版は出ていない)



それを考えたら橋本先生も(言葉は悪いが)多分、ウザかったのではないだろうか。自分が「しまった、ここ間違ってる」という箇所があるものを一方的に褒められるのは非常に複雑な気持ちになるのは事実だ。なので、今先生に「これ(口絵)間違ってません?」と聞かれたのは、多分嬉しい指摘だったと思う(想像&妄想)



ということを考えると

「膝が伸びても伸びなくてもどっちでもいいんじゃない」とか

「その人なりでいいんじゃない」

というのは、橋本先生に失礼じゃなかろうかと思ったりもする。



第一、「じゃあ、なぜ膝が伸びてていいわけ?」とか

そういう疑問はないのだろうか(ないからだろうと思うが)



関西の操体関係の団体の講習では



側屈時(伸ばし、と言っている)に同側の踵を浮かさない指導をしているらしい。それも側屈ではなく「脇伸ばし」と称しているという。話を聞くと、膝を緩めていないので、側屈時に股関節に異常がある人が行うと痛みや不快感を感じることが多いので、踵を浮かさずに「伸ばし」と言っているのだそうだ。



確かに膝を伸ばしたまま側屈すると、股関節周囲に負担がかかる。しかし、膝の力をゆるめるというプロセスを加えるだけで、股関節周辺にかかる負荷は激減する。



つまり、「膝の力をゆるめて、足の親指の付根あたりに体重をかける」という、ポジションを利用すれば、「踵を浮かさない」とか「側屈を脇伸ばしに変える」ようなことにはならなかったのではないか。



膝といえば重要な関節部位だ。

膝二分の一屈曲位で膝窩の圧痛硬結を触診するというのは、操体の基本の基本。何故ここに触れるかというと、膝の裏というのは、「ひかがみ」というが「ひざのかがみ」という

意味でもあるらしい。つまり、全身形態の歪みが顕著にあらわれる。症状疾患を訴える場合、ここに圧痛硬結をみないことはない、ともいわれる。膝を伸ばした場合、緩めた場合では全身の連動も変わってくる(足底にかかる体重の位置も変わってくる)。

般若身経に「膝のちからをゆるめる」という記述が出現したということは、実はすごいことなのだ。