操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

骨盤の前弯曲・後弯曲

操体法東京研究会の定例講習を終えた方が自主的に参加する勉強会がある。

『塾・操体』である。第5日曜の午後開催ということで、昨日開催された。



参加しているのは、操体法東京研究会で学んだ後、実際に現場で指導にあたっている

臨床家が殆どである。いつも思うのだが「研鑽」という言葉がふさわしい。



ところで、朝早めに会場についていた岡村実行委員長と山本実行委員と私は三人で骨盤の前弯曲と後弯曲について盛り上がっていた。骨盤の前弯曲、後弯曲という言い方は聞き慣れないかもしれないが、これは橋本敬三先生が言われていたのを踏襲している。腰椎のS字カーブ、腰椎の前弯曲というのは聞いたことがあると思うし、骨盤の前傾、後傾というのも聞いたことがあると思う。

これは混同しやすいので注意が必要だが、我々が言う『骨盤の前弯曲、後弯曲』とは、骨盤は骨盤でも恥骨を目安に考えている。つまり、恥骨が臍のほうに巻き上がった状態が「骨盤の前弯曲」で、恥骨が後ろに下がり、腰椎の前弯曲が強くなったのを『骨盤の後弯曲』という。骨盤の前傾・後傾を、前腸骨棘を目安として考えているので、前傾・後傾とは逆に考えねばならない。同じことを述べていてもどこを基本にしているかによって違ってくるのである。



月刊手技療法(たにぐち書店)の3月、4月号(2009年)は私の担当であるが、テーマは『骨盤の前弯曲・後弯曲』である。ここ数ヶ月、私はこのテーマに取り組んできたのだが、逆に何故ここ数年の間に「古武術」ブームが流行ったのか、着物が水面下で流行っているのかなどが分かってきたような気もする。本来日本人は「前弯曲」の人種だったのだが(骨盤を前弯曲させると腹が据わる)、いつからか(いつからだろう?)小学校から「気をつけ」「前ならえ」「やすめ」という軍隊式をやられ、腰を後弯曲して背筋をモノサシが入るくらいまっすぐにして胸を張った姿勢が「いい姿勢」だといような教育をされた。もしくは男子の器械体操の選手が着地後にポーズを決める、とかそのようなイメージがあるのではないか。私のところにはよく、『猫背で悩んでいる』という方がこられるが、その多くは猫背なのではなく、両上肢が内旋していて、肩が上がって肩甲骨が盛り上がり、首が前傾気味になっている。骨盤のモードから考えないと、ただ単に上体を伸ばして起こすだけで、苦痛さえ与えかねない。私も記憶にあるが、『姿勢良くしなさい』と叱られて、仕方なく背筋を伸ばしても、すぐに疲れてしまう。

考えてみると、アメリカをはじめ、西洋の家具で思いつくのはソファである。ソファは柔らかく、座る人間の背中、腰、足が沈むようになっており、どちらかと言えば寄りかかるとかくつろぐとか、家具のほうが人間のからだに合わせているように見える。背もたれがあるのも何だか西洋っぽい。一方、平安以前の中国文化が入って来た時以外、日本には『背もたれ』文化は無かったのではないか。だから骨盤を前弯曲させて、胡座をかくとか、腰掛けるにせよ床几(しょうぎ)だったり、背もたれは思い浮かばない。

つまり、外国でソファや背もたれのある椅子が発達したのは、彼らの骨盤が常に後弯曲気味で、何か背中にもたれるものがないと長時間座っていられなかったのではないかという仮説である。



また、ファッションにおいても「ヒップアップしている」というのポイントの一つでもあり、それはすなわち骨盤の後弯曲に通じるところがある。最近の若い子達は足が長くてお尻も上がっている。洋服を着るにはいい体型である。男子だったらサッカーとか野球のような「後弯曲型」スポーツに向いているのだろう。ちなみに野球選手にとって『尻が大きい』というのはほめ言葉なのだそうだ。しかし逆に言えば、相撲とか空手とか、中国武術などは後弯曲型ではねぇ、という感じがする。一番いいのは、その使い分けができるということだろう。私は何も前弯曲が良くて後弯曲が悪いと言っているのではない。操体においては骨盤を前弯曲に保つのが良いのであって、骨盤を後弯曲に保ったほうがいいものはそれで対応すればよいのだ。



いずれにせよ、日本人はもともと「前弯曲」な民族なようである。それをその適応性で「後弯曲的」な生活をしてきたのだが、そろそろ限界が来たのかもしれない。実際「前弯曲」なのに無理矢理「後弯曲」に保つと、まず気がつくのが、「ハラに落ちない」ということだ。ハラに落ちないとはすなわち、『気が上がっている』状態を指す。これは不自然である。



橋本先生の からだの設計にミスはない に、骨盤と腰椎の弯曲について書かれた箇所があるが、なかなか面白い事が書いてある。



『月見は上品(じょうぼん)、汐干狩りは下品(げぼん)と相場が決まっている』『昔の人はなかなかうがった(鋭敏な、洞察力のある)見方をするものだ』つまり、これは長年日本で言われて来た格言のようなもので、古来日本では月見つまり『上開』の女性が良しとされたということだ。いわゆる『上付き』のことである。

これは、女性の骨盤と外性器の関係である。ちなみに上品(じょうぼん)とは(じょうひん)ではなく、仏語で最高のランクにあたるもの、最上級品をさす。これはあくまでも昔の日本的な評価であるから、必ずしも現代に当てはまるかどうかはわからないが。



また、「からだの設計にミスはない」には『胃下垂のご婦人』を診察した場合、『自分のフラウ(独:女性)でなくてよかったと思うであろう云々・・』と書いてある。

これは一体何を差すのだろう。ここは私にとってナゾの部分である。

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