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操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

操体は、先走るな。あわてるな。先ずは見て。

私の10年以上前の受講生で、元寿司職人という人がいた。なかなか面白い人で私より15、6歳年上だったが、どこかで妙ちきりんな「操体もどき」を習ってきており、私に色々見せてくれた。また、手関節を曲げて、背屈掌屈橈屈尺屈外旋内旋を全部「屈曲」と言った伝説の持ち主である。また、私に「橋本敬三先生は『子供は誉めると伸びる』と書いていました」というので、私は50歳を越えている彼に「それは子供に対してでしょ」と突っ込んだのを思い出す。当時勉強に来ていた島根のF氏は、彼と私のやりとりが余りに面白いので、それ見たさに元お寿司屋さんと上京日を一緒にしていた位であった。

彼は「先走り」の名人であったが、自分でもそれを承知していた。今までも何度も失敗しているのだそうだ。

彼が寿司職人になった時は、中卒で寿司屋に入るのが普通だったらしいが、彼は高校を卒業してから寿司屋に就職したそうだ。

勿論最初は皿洗いからはじめるのだが、どうしても早く握りたい、握りたくて仕方ない。心がはやる。というわけで、兄弟子が鮨を握っているところをこっそり見て、夜中に鮨を握る練習に励んだそうである。

「ところが、落ちがあるんです」と彼は言った。

「兄弟子のやっているのをこっそり見ていたものですから、鮨を握る手を左右逆に覚えちゃったんです」「ものすごく叱られまして、クセを直すのに苦労しました」

世の中には、兄弟子や師匠がやっていることを盗んで覚えろというやり方もある。しかし、間違えて覚えると後で困る。

操体法東京研究会では、以前「受講生同士で練習をしていいですか」というメンバーがいた。私の師匠は、それを余り好ましくないとした。何故なら、ちゃんとした指導者がついているならともかく、うろ覚えの受講生同士で間違ったことをやることがあるからだ。これは私の受講生でも同じことがあった。

受講生同士で自主練習をするのは、最初は避けたほうがいい。大抵はどこか抜けているのである。

また「あとでちゃんと教えるから、今は見ていなさい」ということに対して、気がはやって見様見真似でやって、からだを痛めたというケースもある。私が「あとでチャント教えるから、今は見ていなさい」と言ったのは、コツを知らずに私の真似だけしても、からだを痛めるからである。

ここで一番困るのは本人だ。

よく言うのだが、自己流を半年でもやって、ヘンなクセがつくと、それを直すのに三年近くかかることがある。ヘンなクセがついたまま、いくら一流の先生についても、それを直すには時間がかかる。大抵は、そのクセを直す間に脱落するのである。

また、独習できるものと独習できないものがあることは認識すべきだ。

例えば「私は格闘技を本とDVDで勉強しました」という輩はどうだろう。多分「へえ~、本とDVDねぇ」と言われるのがオチだ。

たまにうちの師匠の受講生にもいるのだが、授業で習ったことと、師匠が何年も前に書いた本の中味を比べて「○○の本にはこう書いてありましたが」と聞くことがある。このような場合は、授業の方が新しいのだから、授業のほうを優先するのである。

本を書くと分かるのだが、本は書き終わった時点で完結しているものなのだ。大抵はタイムラグがあり、操体のように進化しつづけているものは、校正している間にどんどん変わることがある。実際「操体法入門 足関節からのアプローチ」は、第1刷と第2刷で「逆になっているところ」がある。まるっきり逆になっているのだ。これは、出版後、筆者の気づきを反映したものなのである。

操体法入門 足関節からのアプローチ

操体法入門 足関節からのアプローチ

なので、本を鵜呑みにするのだったら、筆者が健在であるならば、新しい現場の情報を得たほうがいい。

これも、新しい受講生のために書いておくが、先生が「見ていなさい」という時は、見ることに注目しよう。よく、先生と一緒に手足を動かしている場合があるが、実は見ていないのである。手足を動かしていると熱心に見えそうだが、本当は手足を動かさず、先生の一挙一動を目に焼き付けたほうがいいのだ。

初心者で、先生が「見ていなさい」と言っているのに手足を動かしたりメモをとったりするのは、先生の言うことを聞いていないのと同じなのだ。

あわてずに、先生の模範的な動きを、頭の中でスローモーションで再現できるほどありありと想像できるようになる位まで見るのだ。

その昔、先生がいくら実技を見せてもその通りにできない人がいた。5年以上も学んでいるのに、である。ある日師匠が私に呟いた。「あいつは、オレの実技を見ていない。スケッチをしていて、見ていない」。その人はいつも師匠の実技をスケッチしていたのである。スケッチしていると、よく見ているように見えるが、実はスケッチに気が行ってしまって、見ていないのだ。

先生や先輩と同時に手足を動かして勉強になるのは、中級者以上である。

ちなみに「しっかり見る」と「凝視する」は違う。よく、穴の空くほどじっと見ている人がいるが、ベストは集中しながら拡散している、という見方である。凝視している場合、からだの末端に余計な力が入っていたり、中心軸がずれたりするのである。

 私はこの「コツ」を指導しているのだと思う。