操体法大辞典

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「嫌われる勇気」(アドラー心理学)

なるほど、何故○○氏が、いい大人になっても人からほめてもらいたがるのか。
何故、△△君は大学受験の前になると体調不良で試験を受けられないのか。

タイトルを見て、最初「人生、自分の好きなことして、嫌われるならそれでいいじゃん」系の本だと勘違いするかもしれないが、サブタイトルは「自己啓発の源流『アドラーの教え』」とある。世界三大心理学者と言われる、アドラーの心理学だ。

フロイトユングアドラーの三人が、世界三大心理学者)

アドラーの思想を「青年と哲人の対話」という、物語形式でまとめたものだ。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

 

 

嫌われる勇気

嫌われる勇気

 

 偶然ではあるが、私はこの本で、丁度前の日の「操体法東京研究会定例講習」で、師匠が黒板に書いて引用した「ニーバーの祈り」の一文を見つけた。

何だかすごい偶然だ。

カート・ヴォネガットの「スローターハウス5」にも引用されている。

神よ、願わくばわたしに、変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とをさずけたまえ

 

目次を書き出してみると、

過去に支配されない生き方

あなたの不幸はあなた自身が「選んだ」もの

人は常に「変わらない」という決心をしている

あなたの人生は「いま、ここ」で決まる

なぜ自分のことが嫌いなのか
全ての悩みは「対人関係の悩み」である

劣等感は、主観的な思い込み

言い訳としての劣等コンプレックス

自慢する人は劣等感を感じている

承認欲求を否定する
「あの人」の期待を満たすために生きてはいけない

対人関係の悩みを一気に解消する法

叱ってはいけない。ほめてもいけない

「勇気づけ」というアプローチ

過度な自意識が、自分にブレーキをかける

自己肯定ではなく、自己受容

 以上は抜粋だが、なかなか興味深い項目が並んでいる。

私は直感的に、これは操体の哲学ににているな、と思った。

「ここにいて、いいんだ」という言葉である。
また「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」という諺が引用されている。
これは「やるやらないはテメエの勝手」つまり自己責任を指している。

なお、私の知り合いは叱ってはいけない。ほめてもいけない」という目次に対して

橋本敬三先生は『子供はほめて育てよ』と書いてある」と、クレームをつけてきた。

アドラー心理学の立場では「ほめるという行為には『能力のある人が、能力のない人に下す評価」という側面が含まれているのだという。

例えば夕飯の準備を子供が手伝ったら「お手伝い、えらいね」と褒める母はいるだろうが、夫が同じ事をしたら「お手伝い、えらいね」とはほめない。これは、対人関係を縦軸で捉えているから起こるのだそうだ。

さて、そうするとどうやってこの問題を回避したらいいのだろう。

それは「勇気づける」ことだ。
これは縦の関係ではなく、横の関係だ。

橋本先生の言葉は、確かに「年の功」というのもあったかもしれないが、「縦関係」ではなく「全面的な勇気づけ」という感じがする。

例えば「たいしたもんだ」とか。

また、援助(介入にならないもの)と介入(対人関係を縦でとらえ、相手を自分より低くみているからこそ、介入してしまう)の区別も大切だと説いている。

「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」で考えると、課題に立ち向かうのは本人であり、決心するのも本人なのだ。

そして、割と多いのだが「ほめられたがる人」。

人はほめられることによって「自分には能力がない」という信念を形成してゆくのだそうだ。これは「ほめられたがる人」にとってはショッキングなことだろう。

 

文中に登場する「青年」は、アドラー心理学に対して「劇薬だ」と言う。

確かに劇薬である。

味わって見る価値はある。