操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

日経ヘルス誌3月講掲載の「操体法」記事について

日経ヘルス誌3月号133ページに「首と肩の凝りをゆるめる」肩の操体法 というものが掲載されていた。執筆者は2月号でも操体について書かれていた渡部信子先生である。



最初に断っておくが、日経ヘルス誌に書かれているのは操体、あるいは操体法と言っていいものか疑問である。"



操体操体法は脱力後の『筋肉のビリビリ』で良くなるのではない。力を抜く前がメインである



単に凝っているところに力をぎゅっと入れて脱力するのは「操体法」ではなく、「脱力弛緩法」である。体の緊張をとるために、まず力をいれてから脱力する方法は他にも沢山ある。



また、いろんな先生がいるからいろいろなやり方があってもいい、という暢気な人もたまにいるが、私を含めて操体臨床に携わっているものは趣味や道楽で操体をやっているわけではない。

それだけ真剣にやっているのだから、こういうことは言わせていただきたい。



これは批判ではなく、操体を生業としているものが、自分の魂と同じか、それ以上大切にしているものに対して述べる意見である。



誤った操体の概念を雑誌という公共のメディアをつかって、広めないで欲しいのだ。



先輩達が、『楽な動きと瞬間脱力』という正体術に酷似した操体法から、『快適感覚を聞き分け、味わう』という客観的な内的感覚の重視という方向に、操体の質を高めるべく日々精進しているのに、その邪魔をしないで欲しいだけなのだ。



また、日経ヘルス誌は「操体法」「操体」という記事を掲載するのであれば橋本敬三医師の直弟子である三浦寛先生が東京にいらっしゃるのだし(渡部先生と同じく、朝日カルチャーセンターの新宿で『操体法』の講座を開催されている)、同じく仙台の今昭宏先生などに取材するべきだと思う。



鏡を見て、肩の高さが上がっている方が凝っている。凝っている方を3回、逆を1回、両側が凝っていると感じたら左右三回づつ行おう。



操体ではこういう見方はしない。また「肩が上がっているほうが凝っている」という決めつけはしない。また、回数も決めつけない。



1.凝っている方の肩をゆっくりと持ち上げる。力をいれているという意識がないくらい、ゆっくりと。上げきったら5〜10秒呼吸する。



→凝っている、凝っていないにかかわらず、というか操体法では肩が凝っているからといって、肩をいきなり触ったりしない。また、「上げきったり」はしない。可動域の極限まで動かすのは、操体の源流である正体術か40年以上前の正体術と代わらない頃の操体(当時はまだ操体という名はなかった)だ。また、たわめの時間を5〜10秒としているが、快適感覚ではなく、「凝っている」という選択で肩を上げさせた場合、5〜10秒も保持させるのは辛いことではないか。快適感覚を聞き分けさせる場合は、操者が時間を決めつけることはない。また、凝ったほうの肩を上げたら、痛みや不快感があったらどうするのか。



2.最後の吐く息と一緒に肩をふわっと脱力。肩がおりた状態で5〜10秒間呼吸。筋肉が弛んで刺激が伝わる感覚を味わう。3往復



→呼気と共に脱力する、という方法は、昔、正体術に似ていたことをやっていた時代に、瞬間脱力(昔は瞬間脱力させていた)を促すためにやっていた工夫である。「ふわっ」と、脱力するのだったら、呼気と共に脱力する必要はない。さらに、橋本敬三先生も言われていることだが『呼吸は自然呼吸でよい』のだ。

何故なら、呼吸を気にすると感覚の聞き分けがおろそかになるからだ。



加えて、先月号にも書かれていたようだが、操体操体法は脱力したあとに弛んでよくなるのではない。



「動かしてみて、快適感覚があったらそれを味わう」のだ。勿論脱力後の爽快感はあるが、それがメインなのではない。動いている時の

快適感覚をききわけ、味わうのが操体である。脱力後の刺激を味わうのであれば「脱力法」と言ったらいいのではないか。





3.今度は反対側の肩をじわじわと持ち上げる。最初より動かしやすくなっているのを確認しながら5〜10秒呼吸する



→これは対なる2つの動きを確認しているのだと思われる(再動診)が、再動診をするのにじわじわと持ち上げる必要はさほどないと思う。

また、再動診で5〜10秒呼吸する、などというのは「脱力呼吸法」ではないだろうか。



4.最後の呼吸で肩をふわっと脱力し、また5〜10秒呼吸。この状態で筋肉がゆるんでビリビリと刺激が伝わる感覚をしっかり味わう



→これも同様。脱力後の『筋肉がゆるんで・・』というのは操体の概念から全くはずれている。再度書くが、操体は「動診」(うごかして感覚を確認する)時に、快適感覚があるかないかをききわけて(これが診断にあたる)、味わう(これが治療にあたる)。



実際に私がやるとしたら、どうやるか。あくまでも一例に過ぎないがご覧あれ。



1.立位、あるいは腰掛位などをとる。ここでは左を例にとるが、左手を外旋させる。そうすると、外旋に伴って左肘が正中に向かい、左体側(たいそく)が縮んでくる。右臀部に体重がかかり、右体側が伸びてくる。それに伴って、右肩が上がってきて、首は左側に側屈する。

腰は右に移動する形になるが、痛みや不快感があったら即やめる。不快感がなければ体の中心、腰でもう少し表現してみる。(これが、動診である)



2.快適感覚がない場合はやめる(今度は左を試してもよい)。快適感覚があった場合は、快適感覚に委ねて構わない(要はどんな動きになっても、からだがつけてくるのだから、それでいい)。快適感覚が消えるか落ち着いたら、脱力のしかたはよく『からだにききわけて』行う。

快適感覚を味わった後、殆どのからだは瞬間急速脱力ではなく、ゆっくりとした脱力をつけてくる。呼吸は自然呼吸(きもちよさに合わせた)ものでよい。



4.脱力後の爽快感があれば、充分味わって、落ち着いたらももとのポジションに戻る。

『からだにききわけて』回数の要求、あるいはこのきもちよさをもう一度味わってみたいという体の要求があれば、もう一やってみる。

回数の要求がなければやめる。



これが普段操体の臨床でやっている「肩を動かす」操法だ。

肩を直接上げてもいいのだが、自分一人でやる場合は直接肩を上げるより、間接的に連動を用いて肩を上げたほうが全身形態がよりよく動く。