操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

サトウサンペイの「操体法入門」

この本は生徒役のサトウサンペイさん、先生役の佐藤武氏が監修という形になっている。
この中で、一つ見逃してはならない間違いがある。本が出た日丁度書店で見かけたので中をぱらぱらめくると、立位両手合掌位での両手首前腕の回旋をしているイラストが載っている。
この場合、般若身経の「側屈」にあたるわけだから、身体が側屈したほうと反対の足に体重がかかり、側屈した側の
足は軽く踵が浮く。
しかし、この本では誤植などではなく、イラスト自体が間違っている。どう間違っているかと言うと、側屈した側の足に体重がかかっているのである。また、般若身経の「側屈」はイラストも本文も正確に書かれていた。
このような基本的な誤りを、イラストの時点で校正できなかったのか、残念である。その直後、私は出版社に連絡を取り、操体の正しい理解、あるいは健康関連書籍なのだから、読者のためを思って
すぐに改訂をしていただきたいと願い出た。
同時に三浦先生も出版社に連絡を取った。
この他、疑問がある箇所として、『片方が楽で片方がきもちいい場合はどちらをやればいいのですか?』という質問に
『きもちいいほう』という答えが返ってきている。この回答は変ではない。しかし、次の『両方ともきもちいい場合はどうすればいいのですか』という問いに、『その場合はやらなくてもいいのです』という答えが返ってきている。『両方楽な場合』は、バランスがとれているのでやらなくてもいいと思うが、両方にきもちよさがある場合、それはからだの要求なのだから『両方やってもよい』という回答が正しいと思われる。


また、特筆すべきは、立位で上肢を前方水平位にとった場合の手首前腕の外旋、内旋の動きである。
例えば右手の手首前腕と前方水平位にとり、外旋すると、肘が正中に向かい、右肩が下がり、右体側が縮み、左肩があがり、左体側が伸び体重は左足にかかり右足の踵は軽く浮く。つまり、右側屈の姿勢となる。

この本に掲載されているイラストは、手が外旋するにつれて、身体が左捻転している。私はこのイラストを見た時、「ああ、このイラストのモデルはダンスかバレエをやっているはずだ」と思った。
右手を前方水平位で外旋し、からだが側屈せずに左捻転してくるのは、ダンスをやっている人に多く見られる癖なのだ。特に腕を前方水平位において外旋させた場合上肢の『伸展』をしながら『外旋』をしてしまうのだ。
(参考までに右手を右側肩水平位でやる場合は右側屈になりやすい。お試しあれ)
なので、側屈にはならない。これは私が何人かのダンスのインストラクターに調査して分かったことだ。
確か、佐藤先生のところの操体インストラクターの方は、女性で、なおかつダンスの専門家だということは以前参加した仙台の全国操体バランス運動研究会で知っていたので、多分モデルは彼女であろう、彼女の姿を写真にとったものをイラストに落としたのであろうということは推測できた。
というか、もしそうであったら、立位両手合掌回旋のイラストのモデルもその人であろうということが推測できる。
(って、私って探偵か??単なるマニアか?)

それを三浦先生に伝えたところ、その通りに違いない、ということになった。
その旨を書面に書いて出版社に送り『立位両手合掌』のイラスト位は修正してほしいというFAXを送った。

そして、その訂正を要請している最中に、佐藤武氏が急逝されてしまったのである。本を出版してから一ヶ月少しだっただろうか。

この時『公開質問状』として当方のサイトに『質問』が掲載されていたが、橋本家のほうから『亡くなった人に失礼である』というクレームが有り、サイトからは消した。
サトウサンペイ氏から三浦先生に宛てた手紙は見せていただいたが、監修著者である佐藤武氏が亡くなってしまったのと、ご遺族も、橋本家の(ご子息の一人)ほうからも『訂正はしない』という返事をいただき、現在に至る。版も重ねているようで残念でならない。

また、私のところに来たクライアントが本書の『立位両手合掌左右回旋』を『本の通りにやって』『辛かった』という。こういうこともあるのだ。

誤ったものを出してしまった(私も『ふわくにゃ』でやったが、版を重ねているわけではないので自分のサイトで説明しているし、他の操体の本でも版が代わった時に訂正をして、後書きなどで説明しているものもある)場合、これは速やかに訂正すべきである。

ましてや、一般向けでサトウサンペイさんが著者という形をとっているのだから、一般の人は信じるだろう。
(というか訂正されないでこのまま行くと、サトウサンペイさんも困るのではないか。実際、「先生」のパートなので訂正するわけにもいかず、と書かれた手紙を見せていただいた)

ご遺族の方は、「訂正してほしい」という話を聞いたとき、怒られた(つまり、佐藤武氏の『仕事』をけなされたとでも思われたのだろうか)という。けなしたわけではなく、40年近く操体をされてきた佐藤氏が最後に遺された著作の中に、操体としては重大な間違いがあってもいいのだろうかということだ。逆に言えばこれから先々、「操体の原理を間違って書いたものを出版した」と言われてしまうのではないだろうか。

というわけで、やはり訂正してほしい。佐藤氏のためにも、操体のためにも。