操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

皮膚という器

30代後半、男性。

本人も大半がストレスではないかと訴える。

からだのあちこちに辛いところがあったり、ぎっくり腰をやったりしており、辛い状態で、最近はパソコンを打つのが大変なので、極力やめているとのことだ。勿論初めてお目にかかったわけだが、一目みた瞬間に「ああ、これは皮膚にアプローチべきだな」と直感が働いた。問診をしているうちに、更にその感が増してきた。

全身のバランスやたった感じをざっとみてから仰臥位をとってもらい、膝裏に触れると、軽く触れただけ(?)なのに逃避反応が起こる。胸郭をみると、やはり左右がアンバランスになっている。右胸郭を触診すると、圧痛点がある。

最大圧痛点に指先を軽く乗せて、感覚をききわけてもらう。2,3分ほどしてから「気分は悪くないですか?」と聞くと「とってもきもちいいです」という答えが返ってきた。

ものすごく疲労が激しい時や、心身の疲れが甚だしい時、皮膚へのアプローチを試みると、想像できないような気持ちよさを味わうことがある。



多分、心身が疲れている分、からだは「きもちよさ」をからだにつけて治しをつけているのだろう。



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自分も経験があるのだが、確定申告の時期に仕事が重なって二日程徹夜をしたことがある。今思っても不思議なのだが、全く眠くならなかった。ストレス性であることは確かだが、眠くならないという状況がはなはだ異常だと思ったし、耳鳴りとか、頭の中で音楽がぐるぐる回っているとか、妙だった。



その時、丁度受講生の一人が足趾の操法と足指回しの練習に来てくれて、(というかその人はとても上手だった)丁寧に足趾の操法を施してくれたが、その時の気持ちよさと言ったら、普段とは比べものにならない程、気持ちいいものだった。

その時、私の頭の中に流れてきたのは、東京の地下鉄丸ノ内線をベースにした「お笑い冒険活劇」で、今でも自分の頭の中ではそれを再現できる。自分にしか分からなくて説明し難いのだが、とにかく面白い。指を揉んでもらいながら受講生のAさんに『ちょっと可笑しいから笑っていい?』と聞いて、指を揉まれながら頭の中でお笑い冒険活劇をみて(勿論、寝ているわけではない)笑っていたのだ。



そして不思議なことに、その後は頭がすっきりして、それっきり頭のなかで音楽が流れるとか、耳鳴りがしたのが消えた。勿論気分も晴れやかになった。これは非常に面白い体験だった。



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胸郭へのアプローチを暫く続けていると、全身に様々な感覚がついてきては消えていった。10分程経って、落ち着いたことを確認してからひかがみに触れると、逃避反応が出るほどだった圧痛硬結が消えていた。却って先程はそうでもなかった右膝裏の硬結がちょっと指に触れて痛いそうだ。そこで、今度は左足の甲の辺りを見ると、なにやら「サイン」が出ている。そこを指先で確認すると、胸郭同様小粒ではあるが、とても痛い硬結がある。

今度はそこに触れながら皮膚の走行を確認し、軽く指先を置く。



今度も大して時間を置かずに「気持ちいいです」という。感じから言うと、暖かいものに包まれているような感じと、悪いものがどんどん出て行くような感じがするらしい。悪いものを出す感じがする場合、それは私(操者)にとって悪いのか?という質問

に対して、別に私は(悪いモノを)受けたりしませんから、安心して出して下さい、と答える。



その後、足趾の操法をして終わり。



立って、足踏み、屈伸をしてから気分を聞くと、ものすごく爽快だという。こちらから見ても、先程と表情が全然違う。

最初、本を読んでどうにかしようと思ったらしいが(元気な人だったらそれで足りると思うが)そうではないので、専門家に受けてみたいと私の所に連絡を下さったのだそうだ。想像していたのは、からだをあっちこっちに動かしてみる体操のようなものだったらしいが、健康体操としての操体と、臨床としての操体の違いは即理解して下さったので、皮膚にアプローチするという手法もあることを納得していただいた。



私にせよ、操体というのは、動きから始まったものであるから、決して動きのある操法をおろそかにはしていない。この日記でもたまに書くが、皮膚へのアプローチが好きだからといって、何でも皮膚だけというわけではない。動きへのアプローチにせよ、皮膚に触れることには変わりはないのだから、

どちらもしっかりやることが大事だと思う。



改めていい勉強をさせていただいた。ありがとうございました。