操体法大辞典

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般若身経(1)膝の力をホッと抜くことの重要性

東京操体フォーラム実行委員ブログより転載します。

今回は、操体操体法を学ぶ人は避けては通れない「般若経」の話題です。

 

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こんにちは。畠山裕美です。

般若身経とは、身体運動の法則(重心安定の法則:からだの使い方 重心移動の法則:からだの動かし方 連動の法則 と呼吸との相関性)を、操体創始者橋本敬三医師が
真実を語る短いお経、般若心経になぞらえて(ユーモアを交えて)命名したものである。
 
しかしご本人も書かれているが「このユーモアは理解されず」とあったので、「般若*心*経」と勘違いされたとか、あったのだろう。
私自身も「冗談やユーモアで使うとは、般若心経に失礼だ」と怒られたことがある。
 
そして、関西地方では多分「般若心経」系のとラブルがあったのだろう。この名前をあまり使わず「基本運動」とか、後述する、中味を変えた「基本動作」という言い方をしているようであるが、
実際のところ「般若身経」という言葉は、インパクトがあるので、使われ続けてきたし、操体実践者の間では、ポピュラーな言葉である。
 
なお、この「般若身経」自体は、橋本敬三先生によって、バージョンアップされている。
「中心集約運動」の頃はどちらかというと「鍛錬」のきらいがあり、年月を経るに従って「からだの使い方、動かし方の基本法則」の色が濃くなってくる。
 
般若身経は生きているのだ。
 
 
 
私が初めて「操体法」という言葉を知ったのは、高校二年の時、別冊宝島「東洋体育の本」を読んだ時だった。
その時は「なんか体操?」みたいな感じで、それほど興味はそそられなかったのだが、その後すっと経ってから「操体法治療室」を読んで、「操体法」という名前が甦ってきた。
 
25年前の自分を考えてみると、般若身経に対する理解もまだまだ甘く「基本運動」と、文字通りに受けとっていたのだと思う。
まず、膝の力をホッとゆるめると言う話は、私自身も習っていなかった。最初は、後屈の時はつま先に体重が乗ると書いてあったので、前屈の時は、逆になるので、踵に体重が乗るのかと思っていた。
しかし、前屈時、膝の裏筋が伸びたままだと「おへそを覗く」ことができないことがわかった。
色々しらべてみると「からだの設計にミスはない」に「膝のちからをホッとゆるめる」という記載があることがわかった。
 
私の場合、幸いにも操体を本格的に勉強する前に、太極拳を習っていた(日本チャンピオンになった先生である)。
その時に習ったのが「含胸抜背」(がんきょうばっぱい)という言葉だ。
 
これは、平たくいえば、腰を反らさずに、膝を緩めつつ、背筋は軽く伸ばすというイメージである。
 
腰を反らす→ 膝の裏筋が伸びる →骨盤が後弯曲(恥骨が後ろに行き、背骨が反る。腸骨稜が前傾)→ 胸を張る
 
という、いわゆるよい姿勢である
 
逆に
 
腰を反らさない → 膝の裏筋はゆるむ → 骨盤が前弯曲(後傾)→ 背中が丸くなる → 姿勢悪い
 
となるが、含胸抜背は、膝の裏筋がゆるみ、腰が反らず、なおかつ背筋は軽く伸びるという姿勢になる。
 
実際、太極拳を習っていた時、一番注意されたのは「お尻を出さない」(出っ尻にしない)ことだった。
 
長くなったが、私は太極拳を習っていたお陰で「膝のちからをホッとゆるめる」ということが理解できたのである。
 
なお、日本の伝統芸能や武術などでも、膝の裏筋をぴんと伸ばすものはない。
 
 
 
そして、後に知ったのだが、関西地方では「からだの設計にミスはない」が出る前の「膝の力をホッと抜く」という一言が加わる前の「般若身経」が広まっていた。
 
つまり、膝の裏筋を緩めないものが広まったのである。
 
それがよく分かったのが「基本動作」の「脇伸ばし」である。
これは、「側屈」に該当する。
 
関西の方に聞いてみると「側屈は股関節に負担がかかるので、側屈ではなく『脇伸ばし』になった」とのことだった。
 
確かにやってみるとわかるが、膝の裏筋を伸ばしたまま、側屈すると、股関節付近に負荷がかかる。
 
しかし「からだの設計にミスはない」にあるように「膝の力をホッとゆるめて」行うと、股関節には負担がかからない。
 
そして、膝の力をホッとゆるめる、という言葉が「般若身経」に加わったのは、昭和50年代の太極拳ブームもあったのだろうと考えている。
 
 

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