操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

不自然の自然とバランス現象

最近「バランス現象」という言葉を考えます。

 

ボディの歪みを正す、という言葉よりも、全身のバランスと、軸を調整する、という言い方の方が、現在の操体には合っているのかもしれません。

 

操体法を勉強すると、必ず勉強するのは「病気になる順番となおる順番」という図です。

何故学ぶのかというと、病気になる順番と、治る順番が、西洋医学操体では、全く反対だから。

 

よく例えに出しますが、胃潰瘍になった場合、西洋医学では、胃の中にピロリ菌がいるから、抗生物質でピロリ菌を一掃しましょう、となります。

ところが操体は、「息食動想+環境」という人間がおかれた状況で、息食動想という、自律可能な生活の営みの法則に背反することにより、ボディに歪みが生じ、それが、ボディの歪み→感覚異常→機能異常→器質破壊(病気)となる、と考えます。

 

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ところで、皆さんは「ボディの歪み」があんまりよくないことは知っていると思います。

ところが、我々操体実践者の理解と、そうでない方の「歪み」に対する理解に、少し差があることに気がつきました。

 

世の中の様々なところで「歪みは悪い」と言われています。「ストレス」も悪いと言われていますね。

しかし、ストレス、実は存在しないと、我々は生命の危機にさらされるのです。

劣悪な状況下でも、ストレスを感じなければ、気がつかないうちに死んでしまったり、過労に気がつかずに死んでしまったりするのです。

ストレスも「ありすぎるとまずいけど、全くないと困る」ものなんです。

そういうものは世の中に沢山あります。

多量に服用すると毒になるけれど、少量になると薬になるとか。

また、ウンコの臭いの元になっているある成分は、そのままだと臭いんですが、ものすごく薄めると、香水に含まれるくらいいい匂いになったりもするんです。

 

操体では「不自然の自然」と言ったりします。

例えば、テニスの選手などを診ると、両手の長さが違うのは、普通です。スポーツ選手や職人などは、一般的な水準(正中線を介して左右対称)から、外れている場合が多いものです。しかし、それを「正中を介して左右対称に揃えよう」と、すると、職人として、あるいはスポーツ選手としての技能が発揮できなくなることがあるのです。

 

さて、話は戻りますが、私が「あれ」と思ったことがあります。

それは、講習をやっていて、受講生の方が

操体の目的は、歪みをとることですよね」「歪みさえとれればよくなるんですよね」と言ったことなんです。

 

とる??

 

かな????

 

なんですね。

 

我々は普段から「バランスを調える」とか言っているので「歪みをとる」みたいに、歪みに対して敵意満々?の認識は持っていないんです。それは、不自然の自然と言って、あっていい歪みと、なくてもいい歪みも存在することを知っているから。

 

そして。歪みさえとれればよくなる、というのも疑問です。

歪みを除去しても、生活のクセ(生活の中の運動動作など)が、変わらなかったりすれば、もとに戻ります。

 

イメージとしては

「歪みをとる」→北風と太陽の北風みたいに、歪みを他力矯正的に取り去る(旅人のコートを強制的に風で吹き飛ばして脱がせる)★他力療法的

「バランスをととのえる」→ 北風と太陽の、太陽のように、暖かい光をあてて、自発的に、バランスをとる(暖かくして、旅人にコートを自発的に脱がせる)★自力自療的

 

こんな感じです。

 

操体のアプローチは、「北風と太陽」の太陽なんです。

吹き飛ばして脱がせたコート、旅人はまたすぐ着ますよね。

でも、暖かくなれば、旅人はコートを脱いだままです。

 

つまり、無理矢理脱がせても(他力的に歪みを取り去っても)また戻るんです。

 

なんか無理矢理ですが笑笑「歪みは悪者」「歪みさえとれればいい」というわけではないんです。

あっていい(バランスの中にある歪み、不自然の自然)ものもあるんです。