- 作者: 光野桃
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/05
- メディア: 単行本
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『月刊手技療法』の原稿を書いていて(11月号に今から取り組んでいるのです)頭に引っかかったのが『女性性』という言葉だった。何だか気になったので、ネットでチェックしていたらヒットしたのがこの本だ。たまたま散歩中の日本橋丸善にて発見。今まで光野桃さんという人の本を読んだことがなかった。何でだろう。これも縁というものなのか?
「触らないと、ゆるめないと、女のからだは乾いてしまう もう一度、女性性を取り戻すために 読むだけで美しくなれる官能的身体論」
これが帯書きである。帯の写真も美しいセミヌードの女性のバックショットを用い、センシュアルな雰囲気を醸し出している。表紙の色も何らかの意味があって濃紺なのだろうか。それとも、美の女神が生まれる深い海の色?とか想像を巡らせてページをめくる。
書評にも書いてあったが、この本の内容は決してエロティックな方面に走っているのではない。その前に、仕事や生活の合間で、もしくは成長の過程でどこかに置いてきて、抑圧してきた『女性性』を再発見するという物語が書かれている。
先日読んだ中谷巌氏の『プロになるならこれをやれ!』に、『上手い人は自分の話を普遍的な話に昇華して書ける』というような事を書かれていたが、自分の話をして、まったくつまらない人と、面白い人がいるのは何故か、というナゾが解けた。上手い人は普遍的な話に昇華しているから、面白いのだ。光野さんはプロなので上手いのは勿論だが、そのお陰で読者は易々と自分の体験を光野さんの体験に重ね合わせることができるのだ。
今の40代から50代で、仕事と家庭の両立を立派にやってきた女性は多い。私の周囲にもいるが、フルタイムで子育てして家庭の事もやるなんて驚きである。「仕事の顔」で突き進んでいくうちに、「女性性」と「やわらかさ」ということをどこかに置いてきてしまう。そして、仕事や家庭が一段落した頃、親の介護や自らの更年期障害という事実に対面する。
そこで光野さんはある女性セラピストと出会う。
このあたりは本書を読んで頂くことにして、骨盤に関する記述だけは『やっぱり海外式の考えなんだなぁ』と思った。というのは、われわれの基本は、骨盤の前弯曲(恥骨を臍側に巻き込む)を基本としている。海外系のボディワークの本を読むと、骨盤を前方に巻き込むようにすると、背中が丸まって顎が出るという。しかし、東洋的な「作法」では、骨盤は前弯曲させ、なおかつ背筋は伸ばす。太極拳などで言う『含胸抜背(がんきょうばっぱい)』である。それはまた他の機会に譲る(長くなりますので)としよう。ちなみに私は骨盤の前弯曲がよくて後弯曲がダメと言っているわけではない。腰というか、大腰筋の使い方によって、骨盤の前弯・後弯はコントロールできるのである。
この中に、いくつかのボディワークが出てくる。二人で組みになって、一人がもう一人を後ろから抱きしめるというワークだ。これは「ゆだねる」練習なのではないかと思う。
★実は、操体でも昔橋本先生がされていたもののなかに、体幹の後屈がある。最後に風船から空気が抜けるように脱力を促すのだが、この最終形の形はまるで親子のラッコのようである。講習でこの操法のモデルになる受講生の顔を見ていると、終わった後に何故か皆生まれたての生物のような、何だかそんな表情をしている。
もう一つ出てくるのは、背中を合わせるというワークだ。実は私はこれを良くやる。というか、一人では出来ないので手伝ってもうらうか、寝ているヒトの背中を借りてやる。ベーシック講習をカップルで受けにきたりすると指導する。背中合わせに座ってもいいし、側臥位をとってもいい。背中をくっつけて寛ぐだけ。下手なマッサージや湿布よりも気持ちいいこと請け合いだ。
私達の世代の女は極端に甘えるのが下手なのではないか、とも書かれている。自分を見る限り確かに下手だ。特に女姉妹で長女などというのは、典型的な甘え下手である。実際「甘えるのが下手だな」と笑われることもある(笑)甘え方の代替行為として、『預ける』というボディワークが紹介されているが、自分の体重を相手に預けるというポーズだ。うつ伏せに横たわったパートナーの上に仰向けになって乗る。自分の体重が負担になるのではと身を硬くしていると、相手はかえって相手は重く感じ、思い切って体重を預けてしまうと、そこに一体感のようなものが生まれてくる、と書いてある。
そこで思い出したのが、動診を行っている時、妙に遠慮してくるクライアントの方々の事である。動きの動診でからだを使う場合、遠慮して『センセイ(私)、細いから疲れないかと思って』と言うのだ。勿論私は訓練を受けているプロなので、そんなことはない。かえってそのような気遣いをせず、預けてくれたほうがいいのだ。心配して下さる繊細な気持ちはありがたいと思うが、預けてくれればいい。