月刊手技療法 11月号掲載分を加筆訂正したものを掲載します。
次回春季も宜しくお願い致します。
セミナーレポート 2006年秋季東京操体フォーラム
畠山裕美
2006年10月8日、東京千駄ヶ谷・津田ホールにて、2006年秋季東京操体フォーラムが開催された。
当日は本誌連載中の「シリーズ操体」執筆担当者である、三浦寛、今昭宏、畠山裕美(筆者)3名の連載原稿、未発表分を纏めたものに加えて、操体の創始者、橋本敬三先生の稀少な作品*1)が数編収録されている『操体法 -生かされし救いの生命観-』が、フォーラムに合わせて発刊された。
*1)橋本敬三先生が20代初め、新潟医学専門学校(現新潟大学医学部)在学中に白樺派に影響を受けた式場隆三郎氏と一緒に書いていた同人誌「アダム」からの小説2編と、小品、また60代になってから興味を持ったと言われている、神代文字についてやはり式場氏が委員長を務めていた『医家藝術』誌に寄稿された2編が収録されている。
三浦寛理事長から開会の挨拶と共に、実行委員長に新しく就任した岡村郁生氏が紹介された。岡村実行委員長は、昨年、一昨年とラジオ体操と操体をテーマに研究を続け参加者一体型の講義を行っている。新実行委員長からはフォーラムのこれからに対する抱負が述べられた。
午前の部: 「食文化と食快」福田勇治 オフィス・エルランティ
福田の発表は、歯の話から始まった。操体では成人の歯で、親知らずを除く28本を種類別に考えると犬歯:肉食の歯4本、門歯:野菜を切る歯8本、大臼歯、小臼歯:雑穀、海草、果物をかみ砕く歯16本である。人間の歯の種類と本数からみて、肉1に対して2倍の野菜、その4倍の雑穀・海草・果物の割合で食事を取るというのが一番自然に叶っているのではないかと考える。勿論それも一理あると断って、福田は、行動的な見地から見た食物についての解説を行った。まず、「襲われない」「逃げない」という理由で、植物が一番適しているのではないか。植物と言えば、日本人が長らく主食にしていた米がある。
福田が「食べる快」として紹介したのが自身も自らの身体で試してみたという米食である。明治時代のデータによると、重労働で知られる製糸工場の女工達の食事内容を記録したものがある。
食事内容は、米が主で、副菜は漬け物程度とみそ汁。一日の摂取量は4合となっている。彼女達は米飯で過酷な労働を乗り切っていたという報告と、明治時代、人力車の人夫二人を使った実験で、一方は肉食、もう一方は米食という食事を取らせたところ、一見肉食のほうがスタミナを保てそうであるが、実際先にダウンしたのは肉食だったという事例が紹介された。また、副実行委員長が指導を受けた食養の師によると、米を一日3合という食事を(副食は漬け物、納豆など発酵食とみそ汁)、暫く続けると身体が確実に変わるという。戦後「米を食べるとバカになる」とか「ごはんよりもおかずをメインにバランス良く食べなさい」という教育を受けてきた現代の日本人にとって、一日米3合(ベストは9合)というのは相当な量になる。
実際、福田本人は米食により確実に身体が変化したという。
以上が「食べる快」についてだが、今度は「食べない快」についての解説である。食べない快とは、すなわち断食(ファスティング)のことである。福田は島根県在住だが、春と秋に手作り酵素をつくり、それを使って断食をする。春は野草、秋は根菜類等で仕込み、_重量だと5Kg〜10Kg、年2回作る。これを飲みながら断食するわけだが、最初はタールのような宿便が出るそうだ。酵素の効用で空腹感もなく、快適に過ごせるという。また「食べない快」というものを確実に味わえるという。効果としては身体がクリーンになるのは勿論、目がはっきりする、肌のきめが細かくなるなどの良い結果も得られるそうである。
質疑応答では、一日3合米食をするにあたって、どのような種類の米を食べたらいいのか、という質問にはどんな米でもいい、という回答があった。手作り酵素については、参加者も興味があるという意見が多く、追って東京操体フォーラムのHPで公表することとなり、終了した。
「用語解説・快適感覚について」
草階文恵 草階妙健操体研究所
畠山裕美(筆者) TEI-ZAN 操体医科学研究所
まず筆者が操体を理解する上で参考になる用語の解説を、実技をふまえて行った。上肢前腕における8つの動きである。
手関節:背屈、掌屈、外旋(回外)、内旋(回内)、橈屈、尺屈、牽引(引き込み)、圧迫(押し込み)
足関節:背屈、底屈、外転、内転、外反、内反、牽引(引き込み)、圧迫(押し込み)
この後、身体運動の法則(重心安定の法則、移動の法則、連動の法則)を世界一短いお経、般若心経になぞらえた、般若身経から、自然体、前後屈、左右側屈、左右捻転を参加者と共に行った。これは、健康体操として認識されているところもあるが、今回はからだの使い方動かし方についての基本ということで紹介した。
自然体
・足は腰幅
・踵とつま先は平行に
・背筋を軽く伸ばして
・目線は正面の一点に据える
・膝のちからをほっとゆるめて
・体重が足の拇趾の付け根あたりにかかるように
今回は時間の都合で何故、足は腰幅でつま先と踵は平行なのかという説明ができなかったが、次回は更なる詳細を発表する予定である。
続いて、草階実行委員の発表「快適感覚について3」が発表された。前回、前々回に続く発表になる。
草階の主な研究テーマは性的快感についてであるが、
・不感症の女性の場合、膣内が硬く(凝っている)
・そけい部も同様である
というリサーチ結果を得た。また、男性においても、そけい部近辺は凝っている場合があり、軽く圧を加えると非常にきもちよさを味わうことができることがわかった。更に、タイマッサージの中には、生殖器付近にマッサージを加える手法があり、それらは特殊なものとして一般のタイマッサージとは袂を分かち合い、ひっそりと伝承されてきた。草階実行委員の調査研究に基づいてそけい部周辺に軽く圧を加えるなどの手法が発表された。
性については、橋本敬三先生も、レーベンス・テーマ(ライフワーク)として研究されていたものであり、操体を実践するものにとっては、避けがたいテーマであり、快適感覚とも多いに関係がある。なかなか踏み込みにくいテーマであるが、回を重ねる毎にテーマが深くなっているようである。前回も前々回も同様であったが、発表直後に質疑応答の時間をとっても、質問者の手は上がらず、フォーラム後の懇親会の時に草階実行委員に質問が集中するという。これは参加者にとっても関心が深いということであり、次回も継続発表の予定である。
対談:三浦、今、草階、原(ゲスト)、畠山
操体とは、橋本敬三の想念、宗教観、生き方、健康法などを含めたものとして捉え方であり、操体法とは、臨床として、あちこちを痛めて症状をもって来られる患者様への対応である。という三浦の解説から始まった。今が温古堂勤務の初日、患者さんの足を揉もうとしたところ、橋本先生から
「今君は、原始感覚(きもちよさ)だけを患者の体に指導しろ!」
「本に書いてある内容はちがう。きもちの良さで良くなるんだから、それに合わせなければならない」
「お前が思ったんだから、思ったらすぐやれ!」などといった、橋本敬三医師の知られざるエピソードが語られた。
また、原正人氏(明光義塾)からは、生徒の個別指導の際、知識よりも意識レベルの指導をするほうが大変であったという課題から、意識、無意識、それに繋がる皮膚へのアプローチと話は進んだ。
各動診における操者の実技指導、実演指導
A班からE班に分かれ、ベッドを5台用いて、実行委員が各ポジションの各動診の介助法を実演した後、会場の参加者に、実際介助を与えられた感じや、実際介助を与えてみる感じはどうなのか、というデモンストレーションの時間とした。
A班 福田(副実行委員長)山野(実行委員)
下肢伸展における介助法(伏臥位):両下肢伸展における介助法(伏臥位) 6題
B班 岡村(理事)草階(実行委員)
足関節の内反、外反における介助法: 仰臥位下肢伸展位、膝二分の一屈曲位 5題
C班 畠山(常任理事)森田(実行委員)
足関節の外転、内転における介助法:仰臥位・膝二分の一屈曲位、伏臥位・ 膝二分の一屈曲位、両足足関節の左右回旋 5題
D班 西田(実行委員)鵜原(実行委員)
手関節の橈屈、尺屈における介助法: 立位 足関節の背屈、底屈における介助法 仰臥位 5題
E班 友松(実行委員) 山崎(実行委員)
手関節の外旋、内旋における介助法:両手関節の右回旋、左回旋における介助法 立位 6題
「簡単そうに見えるが、実際は難しい」
「ぴしっと介助が決まると、それだけでもきもちいい」という声が聞かれた。
この中で、いくつか立位における介助法を紹介したが、立位で臨床の動診ができるとは知らなかった、との声も聞かれた。
これは、いかなるポジションでも動診可能という操体の特徴であり、臨床はベッドで仰臥か伏臥で行うもの、という思いこみの払拭にもなったと思われる。
「皮膚の操法を交えた操体ライブ」
今昭宏 操体医学研究所 今治療室
ひかがみ(膝窩)の硬結について、体のどこに歪みがあっても出る場所なので、目安になるという説明の後、膝窩だけではなく、ふくらはぎなどにも硬結が生ずることもある、という説明のあと、会場内から被験者を選び、全4症例に対して操法を行った。今回のテーマでもある皮膚に対するアプローチがとられ、頭皮を動かしてみる操法からはじまった。
その前に、被験者の膝窩を触診し、硬結を確認、操法が一段落してから、参加者の一人に同様に膝窩の触診を試させ、頭皮に触れていたのに、膝窩の硬結が解消することを示した。四症例目には、正座ができないという被験者を四つん這いにさせ、膝の裏の皮膚を動かすと、膝が曲がり、正座ができるようになった。これは、膝の故障が瞬間的に完治したのではないが、皮膚へのアプローチで、一瞬にしてからだの状態に変化が起こるという事例である。
「連動のさらなる追求」からだの中心、腰の中心を操る 三浦寛
人体構造運動力学研究所
三浦は、まず。「8」という数字を挙げ、
・からだの動き: 8分類
・皮膚の動き: 8分類
・感覚の分析: 8種
・からだの連動: 8方向
・きもちよさの問いかけ: 8種
があることを解説した。
皮膚へのアプローチは、面、つまり皮膚をずらしてみての走行感で診る場合、点、つまり中指と薬指のうち、中指を主軸、薬指を支軸として、圧や刺激を与えずに触れるという方法がある。(渦状波:カジョウハ:『快からのメッセージ』『操体 臨床の要妙』たにぐち書店)
患者のからだの要求に従った操者のポジショニング(立ち位置)については、そのような診断法もあるのかと、参加者は盛んにメモをとっていた。
皮膚へのアプローチは、動きがつく場合と、感覚がつく場合がある。この場合につく動きは、有意識的な動きではなく、無意識の動きである。
なお、三浦理事長は先の今顧問の実技の際のモデルを再度起用した。
一例は、同モデル(今顧問は右上肢上腕の皮膚を動かしたアプローチを行った)に対し、先ず仰臥位、左肩胛骨触診、そのまま触れながら感覚のききわけをとらせた。操者の触れ方によって、同じモデルでも感覚のききわけ方、動きは違ってくる(つまり、感覚はいつも変化している)ことを示した。二例目は、ボディの中でも顕著に歪み(圧痛、硬結)が顕れやすい胸郭へのアプローチを、点の渦状波で行った。二例とも被験者はゆるやかに舞っているような動きを見せた。この動きは、決して恣意的なものではなく、からだがつけてくる快の動きである。
2007年春季東京操体フォーラムは、2007年4月22日、同じく千駄ヶ谷津田ホールで開催予定である。