操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

視診触診専科

最近の三浦先生の講習では「触診」を改めてやっている。本来なら手技療法家として視診触診はできるというのが前提なのだろうが、話を聞くと柔道整復の学校では触診は教えないらしいし、鍼灸の学校でも習うにしろ経穴の取り方などがメインらしいし、カイロプラクティックを勉強した人に聞いてみると、触診は頸椎から仙骨までしかやらなかったという(本来は四肢の関節もやるはずだが)。また、カイロプラクティックをやった人に更に聞いてみると、モーションパルぺーションは手掌で行う場合が多いという。そういえば、私も骨盤や椎骨の検査評価法として習ったことがある。また、先程あるカイロの先生のサイトを見ていたら、『上の写真でモデル着用のレオタードは、治療プロセス及び身体の動き等を分かりやすく見せるためであり、実際の治療で着用することはありません。当院では、多くのカイロ専門のオフィス同様、患者さん用のガウン(後開き)に着替えていただきます。着衣の上からでは、正確な背骨・骨盤の検査及び治療が困難となります。 』と書いてあった。



正直なところ、ちょっと驚いた。着衣の上からでは分からないのか。というのは『着衣の上からでも視診触診ができるようにせよ』と普段習っているからである。これは脊柱の配列異常そのものにコンタクトするカイロプラクティックと、脊柱の配列異常は身体の末端からアプローチする操体との違いかもしれない。直接コンタクトするならば、実際脊柱が見えたほうがいいに違いない。



いずれにせよ、視診触診は動診に入る前の重要なプロセスである。視診触診、動診をせずに、クライアントが「ここが痛い」という箇所に直接触れるのは避けたいところだ。



触診の方法として私達は中指の指尖(しせん)を中心に、薬指をサブに使う。脊柱などは中指と薬指をV字に開いて上部胸椎から仙骨のあたりまですーっと軽くおろす。(これは橋本敬三先生がされていたのを踏襲しているのである)それから二度目、同じように軽くなで下ろすが、ひっかかりや硬結があるところで手をとめる。

膝窩の場合、私が習ったのは仰臥膝二分の一屈曲位のクライアントの足方に正座し、左膝窩を触診するならば右肘を自分の右膝で支え、人差し指を

出さないで(人差し指を出すと、手が小さい場合充分な触診ができない。膝の左右傾倒の場合は人差し指を出すので、注意が必要だ)

中指と薬指で「(逆さにした)鍋底かどんぶり鉢の底を探るように」横と縦に軽く指をゆっくり動かす。注意すべきは押圧しながら触診しないことだ。押しながら触診しようとすると、硬結が逃げることがある。軽く表面の皮膚に触れ、「ここだ」と思ったら中指で硬結をはじく(というか触れる)。

「何で肩が凝ってるのに膝の裏を触るんだ」というようなクライアントの場合には、例によって(『操体法治療室』参照)膝窩の硬結を逃避反応が出るほど触れて『肩が凝ってるって言いますが、膝の裏にも何かありそうですね』と、いう場合もある。



講習で触診の練習。

膝の裏と内果、外果、頸椎、脛骨の内側縁。

膝窩というのは本当に面白い。硬結の形状も丸くて硬いものもあれば、米粒状(べいりゅうじょう)のものもあり、細い筋状のものもある。場所も膝窩の内側や外側など様々である。膝の裏筋の幅も人それぞれだし、柔らかさも触れた感触も皆違う。ちなみに服の裾をめくって膝裏を直接触るよりは、ズボンの上から触ることのほうが多い。ジーパンなど固くて厚い生地はさすがに避けるが。仰臥膝二分の一屈曲位になったモデルの足方に正座し、右肘を右膝について、母指を除く四指を外側から膝窩に入れる。使うのは中指と薬指。最初に膝窩を横断するように、次に縦に、とクロスするように触れてゆく。私もたまに講習で膝窩の触診のモデルをやることがあるが、上手い人というのはリズムが一定でせわしくない。慣れないとどうしても触れられているほうはせわしく感じてしまう。慣れている人の手がささっと動いて圧痛硬結に触れるのと違って、何だかせわしない(その割にはなかなか見つからない)というのがおおよその感想だろうか。ちなみに、触診を上達させるには数をこなすのもその一つだが、上手い人に触診してもらうといいと思う。誰かモデルになってもらって、まず上手い人(先生が一番いいに決まっているが)にやってもらい、次に自分がやる。その時被験者(モデル)に、どのように違うのか、速さ、力強さなどを聞くのだ。



最近、操体の講習をやる前に『プレ操体講座』として、視診触診、身体の使い方動かし方を三ヶ月くらいやったほうがいいのではないかと思うことがある。視診触診はある程度コツを覚えてもらってトレーニングを積めばできるようになる。視診触診・般若身経を三ヶ月みっちりやれば操体を習得できるスピードは速いと思う。視診触診般若身経を体得せずにいきなり、操法を覚えたい、体得したいといっても基礎工事がなっていないわけだから、いつの日か壁にぶち当たるのだろう。私はそうやって脱落していった人を知っているし、触診力が問われないようなエネルギー系のワークに走った人も知っている。



操体を勉強したいという方の中には動きの操法をスキップして、いきなり渦状波(カジョウハ)をやりたいという方もいらっしゃるが、私の姿勢としては、動きの操法ができないのに皮膚へのアプローチを勉強したいというのはちょっとねえ。