来年は団塊の世代が一気に定年を迎える。インターネットでもそのような人に向けてのサイト、記事が見られるようになった。
そういった背景もあるのかもしれないが、最近『定年後に操体をやって開業したい』というお問い合わせをよくいただく。
まあ、そこらへんはあまり早まらないでほしい。
何年か前、私のところの一日講習(三時間半)を受けて、それで操体をマスターし、開業できると思っていた人がいた。
これにはさすがに驚いた記憶がある。
また、遠方から半年に一度、一年に一度いらしていて、四回位経った頃『自分はいつ開業できるのでしょうか』という質問を
いただいたこともある。
『操体法 生かされし救いの生命観』にも書いてあるが、お年を召してからの橋本敬三先生のなさる操体法は、数が限られて
いたらしい(当然である)。また、名人は難しいことをいとも簡単にやって見せるものだが、それを見て『操体って簡単だ』と、
周囲の反対を押し切って開業し、半年足らずで廃業したという話も聞いている。
夏頃に連絡を下さった方は、1月に定年なので、何とかその間に操体を身につけたい(開業できるレベルまで)と言われていた。
果たしてそれが可能かどうかは分からないが、どうやら、私が提示している受講料を見て、連絡を下さったようである。
ちなみに、ミドル(専門家)で12〜15回(15万)という設定になっているが、全くの素人がたった15回の講習で、操体をマスター
するのは至難の業である。これに関しては、鍼灸師、柔道整復師、スポーツトレーナー、インストラクターなど、人様のからだに触れる
専門家向けであり、なおかつポイントを絞っているから12回から15回程度なのである(それも、この1タームで終わるとは
限らないし、私は動きの操法を飛び越していきなり皮膚へのアプローチなどはやらない
いずれにせよ、何か糧を得るものを学ぶにあたって、
安価で短期に、というのは頂けない。
操体に手順があり、誰に対しても同じやり方、同じ順番で時間を決めてやるのなら簡単この上ない。
しかし、受け手(被験者)のからだに感覚のききわけをとおしながら進めていくのだから、順番通りにはいかないし、感覚は瞬時に変わる。これがパターン化できない大きな理由である。
パターン化すれば、教える方は楽だ。
しかし、実際の臨床では例外のほうがはるかに多い。
操体でも、中にはパターン化してやっているところもあるが、そのような場合、間に合わなくて、他の手技療法やエネルギーワークを取り入れている場合もあるようだ。
面白いといっては何だが、操体を真面目に学んでいる方々は、例え鍼灸や柔道整復の免許を持っていらしても、『操体だけでやりたい』と思うようである。これは、それだけ操体には魅力があるということでもあるが、逆に言えば、茨(いばら)の道を歩むことを決めているのである。
つまり、短期間にパターンを覚えて例外にぶつかり、にっちもさっちも行かなくなるか、操体をまるごと長期戦で勉強するかである。