橋本先生は、ある時期まで保険診療をしていたそうなのだが、ある時から自費診療に変えたそうである。患者さんとは不思議なもので、わずか500円程度の金額の違いでも、自費にしたらぱったり来なくなったらしい。
三浦先生に聞いた話だが、本当に患者が来なくて、冬だというのにストーブも焚けないような状態になったらしい。その時は、患者の一人がドラム缶で灯油を持ってきてくれてストーブが焚けたということだ。
本の中でも、橋本先生は「綱渡り」ということを書いておられる
私は毎月、月末になると多少の不安を感じるんだ。今月は支払い大丈夫かなと思ってね。まあそれは、今に始まったことじゃなくて、開業以来ずーっとだから慣れっこと言えば慣れっこになっちゃっているけれども・・。でも、何んとかやってこれた。
死んだ家内には世話をかけたけどな。
私のせがれの一人に言わせれば、おやじは綱渡りをしているって言うんだ。「おやじ、それでいいんだよ。とにかく墜落しないんだから、地上最大のショーじゃないか」とね。そう言われた時は正直言ってうれしかったねえ。(からだの設計にミスはない 74ページ)
その後、操体がブレイクしてからは、日本中から患者が押し寄せ、話によると、温古堂には札束を数えるのが役目の従業員もいたらしい(お金を持ち逃げしたという話も聞いた)。
晩年は月末に不安を感じたりすることはなかっただろうが、多分「間に合っていればいい」という心構えがあったのだと思う。
しかし間に合っていればいい、と言っても、本を読むとかお洒落には気を遣われていたようである。この辺を勘違いする人が多いのだが、間に合っていればいいからと、着るモノやお洒落、自分の勉強はじめ、自己投資は必要だと思う。
ちなみに、お釈迦様は弟子に托鉢に行かせる際、貧しい家から回るように言ったそうである。何故かというと、貧しい家は「エネルギーを先に出す」という習慣ができていないことに原因があると知っていたからだ。欲しがってばかりいて、今握っているものを手放さないと、どんなに素晴らしいものが来ても、それを掴むことはできないのだ。