操体法大辞典

操体の専門家による、操体の最新情報など

原因と結果

操体を一緒に、あるいは違う時期に勉強した仲間が集まって、今の自分が抱えているテーマや、解決すべき問題点を話し合う機会がある。我々は少なからず、人様を相手にしているので広い範囲で言えばサービス業にあたる。サービス業が『顧客満足』ならば、操体は『顧客のからだの要求を満たす』ことになるのだろうか。



操体の基本的な考え方に『息食動想+環境』のバランス、というものがある。最近、食は食養、呼吸は呼吸法、動き方は身体論、精神的・精神活動の問題はその専門家、というようにそれぞれのプロが活躍されているが、この4つを同時に切っても切り離せないものとして考えているのが操体である。



まず、この4つは他者に代わってもらえない自律可能な行為(営み)である。自律可能ということは、自己責任ということでもある。

簡単に言えば、このバランスが崩れるとボディに歪みが発生する。よく『からだが歪んでいるからどこそこが悪くなる』、という言い方をすることがあるが、大抵は『何故、歪んだのか』とは答えられないのではないか。



私がこのような質問をすると返ってくる答えは『いつも片方の肩にカバンをかけているから』『長年の癖がたまって』『姿勢が悪いから』(それでは、何故姿勢が悪くなるんだろう?)『大きなケガをしたのが原因で』『靴が悪いから?』など、様々な答えが返ってくる。そのどれもが違っているわけではないのだが、『息食動想+環境』という営みのバランスを考えると、何故、アンバランスになるのか?という疑問をわりと簡単に解くことができると思う。



我々は『良くする手伝い』をしているのだから、その原因である『何故悪くなったのか』ということを知るべきではないだろうか。これは操体を知ってからいつも思うことだ。



これは非常に興味深い例だが、橋本敬三先生の本の中で、頭部に鶏卵大の痛みが派生するという老婦人の話がある。何故か知らないが、頭に鶏卵大の痛みが出るのだ。彼女を診察した橋本先生は、足の裏に魚の目があるのを見つける。その魚の目をカミソリで切除してから、全身形態の歪みを調整して、スピール膏を貼らせたところ、頭の痛みが消えてしまったというのだ。これは、多分魚の目によって老婦人の身体運動に何らかの癖が生じ、それが頭頂まで上がって『鶏卵大の痛み』になったのだと考えられる。急がばまわれ、といういい例だ。多分、頭の痛みに気を取られてそこを冷やしたり、暖めたり、何か薬を塗ったりするのが現在の病院に行ってもされることだろう。一番の原因を見ないで、起きている現象ばかりに目を奪われてはいけないという教えでもある。これは、『火事の時、火元ではなくサイレンに水をかけるようなもの』と良く言われる。この話には続きがある。自分の母親がある日、頭の一部に、何だか痛いところがある、と言ってきたのだ。どのように痛いのか聞いてみると、「鶏卵大」のエリアを示す。私はこれを聞いて、すぐに足の裏に魚の目はないか聞いてみた。すると母親は驚いて、この数日間、魚の目が痛くて歩きにくかったというではないか。すぐに魚の目用のスピール膏を買い、全身形態を調整した。勿論、魚の目が取れてくるにしたがって、頭の痛みは解消した。



これと似たような例では、捻挫の後腰痛になるとか(捻挫をして、片方の足に負担がかかるので、大抵は捻挫した足とは反対側の腰にくる場合が多いように思える)、腰が痛くなると魚の目も同時に痛むとか、魚の目が痛むと腰が痛む前兆であるとか色々ある。どれも些細なことではあるが、絶対関係しているのであり、全く関係ないということはない。



師匠がたまに受講生に言うのは『腰痛の患者を診たとする。その患者の顔を見ると、片方の眉毛がもう片方に比べてやけに下がっている』

『こういう時、眉毛が下がっているのは何か腰痛に関係あるんじゃないか』

『それとも、眉毛と腰痛なんて、まるっきり関係ないじゃないか、とどう考えるかだ』

通常はまさか腰痛と眉毛が関係あるとは思わないだろうが、実際のところ関係ある場合もあるのだ。もっと分かり易いところでは、顔の鼻中線を見れば、頸椎の異常はすぐわかるし、立位をとらせ、歪みをチェックすればおおよそどこに圧痛硬結があるかわかる。このような分かり易い例では比較的納得してもらえるのだが、眉毛と腰痛の話をすると、『?』という反応を示す場合が多い。(別に眉毛と腰痛でなくても、捻挫とほお骨の高さでも構わないのだが)



というわけで、原因と結果を素早く推測するには、息食動想+環境 というバランスを考慮した推理力が必要なのかもしれない。