生体の歪みを正す―橋本敬三論想集 は、操体を学ぶ者にとってのバイブルである。師匠、三浦寛先生はびっしりと書き込みされたのを何冊か持っている。私が17年前、最初に操体を習った小林完治先生(ちなみに、小林先生に連絡をとりたいのだが、とれない状態である。どなたか先生の行方をご存じないだろうか)も、この本にびっしりと書き込みをされていたのを思い出す。
いずれせよ、我々の必読書なのだ。
操体の本というと、どうしても農文協から出ている
万病を治せる妙療法―操体法 (健康双書ワイド版) とか 写真 図解 操体法の実際 (健康双書ワイド版) が手に入りやすいので、どうしても一般の方はこれを買うのだろうが、これらはあくまでも一般向けであることを忘れてはいけない。何が一般向けかというと、呼吸や飲食、精神活動に関しては専門家にも役に立つのだが、実際の操法、つまり皆さんが一番知りたい『どうやったら治るのか』というやり方が、足りないのである。実際あの写真やあのイラストを見て、やり方が分かるのだろうか。あのイラストのお陰で、どんなに妙ちくりんな「操体法」が広まっていることだろう。
まあ、頑張ったり無理したりしなければからだを壊すことはないだろうが、効果があるとは思えない。
また、「操体法の実際」は、正確には橋本先生は「監修」としてお名前を貸しているだけである。何故なら「操体は症状疾患にとらわれない」というセオリーがあるのに、この本には『この症状にはこの操法』という一覧(確かに普通の方は食いつきやすい)が載っており、操体の理論にそぐわないのである。
参考までに、初版ではこの本の巻末に「操体法をうけられる施設一覧」が載っていたそうだが、今は削除されている。
その理由だが、「実施施設に行ってもやってもらえなかった」という苦情が多かったからだそうである。逆に考えれば『操法はできるが結果がだせるわけではない』というところが掲載されていたのだろう。
いつも思うのだが、雑誌の特集に載っているような『○○に効くツボ』の記事をみて、『へえ』と素人が気軽にやってみるようなもので、その場合、気軽にやっているのだからもの凄く劇的な効果は望めないだろうし、望まないと思う。こういう場合、本当に経絡治療を受けたいのだったら、鍼灸の先生のところに行くだろう。
更なる問題は、鍼灸の先生や柔道整復の先生方、あるいは手技療法の先生方も、農文協のこれらの本を読んで『これが操体』だと思っておられる方々が多い事だ。最近でこそ、ネットのお陰で情報が流れているものの、未だに『楽なほうに動かして瞬間脱力』という第1分析が流通しているのである。
加えて言うならば、10数年前から『楽』よりも『快』という言葉が主流になってきた。ここで、やり方は古来の第1分析『楽なほうに動かして瞬間急速脱力』なのに、言葉だけ「きもちよさ」を使い、『どちらが気持ちいいですか』と聞くケースが増えている。
こうなってくると、大抵は「どちらがきもちいいかわからない」ので『色々動いて探そうとする』これが諸悪の根源である。
8つの動きを分析(診断:動診)して、きもちよさがききわけられたら味わう(操法:治療)のが操体臨床であるから、「きもちよさを探して動く」のでは、『診断(動診、つまり分析)』が欠落しているのである。
★もしも、『どちらが気持ちいいですか』と問いかけるとか『きもちよさを探して』という指導をしている操体指導者がおられたら、それは『動診と操法の区別がついていない』のかあるいは『楽と快の違いがわかっていない』のである。
★昨年、全国操体バランス運動研究会に行った際、キャリアの長い先生が、壇上でこのような指導をしていて驚いた。
一応、何十年も操体をやっている、という先生がである。
私の推理では、この先生は楽と快の区別がついていないのだ。実際、操体が効かない場合には、某療法をやっておられるという話なので、納得しないわけではない。
『楽と快の違い』『動診と操法の区別』がついていないと、操体だけでは臨床効果が出ない。なので、他の治療法を併用するのである。勿論それが悪いとは言わないが(操体を受けたい、という患者さんにとっては迷惑かも)、
『気持ちよさを探して』とか『楽な方にきもちよく』とか『どっちがきもちいいですか』とか、我々の専門家の邪魔をするような発言はやめてもらいたい。
・・・・また長くなってしまったが(笑)
『生体の歪みを正す』がもう一冊欲しくなり、アマゾンで探したら、何と初版本中古が8万8千円で出ていた。
何と、はちまんはっせんえんである。私が持っているのは1987年版第3刷で、確か4500円位で買った記憶がある。
受講生にも「この本はバイブルだから読め」と言うと『分厚いし、高いから後で買います』と言っていたのがいたが、そういうことを言っていると、手に入らなくなってしまう。本は買えるときに買え、なのである。特に一度買ったらなかなか手放さない類の本なので、中古で買おうと思っても、なのだ。今回、アマゾンはじめ様々な中古書店を探したが、見つからなかった。
他を探してみたが、新刊本も手に入らないらしい。そこで、たにぐち書店に電話して店頭在庫を調べてもらったが、在庫はない。版元の創元社に聞いていただいたところ、版元にも在庫なしで、重版の予定はないらしい(汗)
その他医道の日本のショールームや、ジュンク堂、丸善の店頭在庫を探して貰ったが、品切れとなっていた。
創元社に「重版して下さい」とお願いしなければ(汗)
これから操体を勉強したいという方々のためにもである。
ちなみに、 操体法治療室―からだの感覚にゆだねる と、からだの設計にミスはない、 操体法写真解説集
の三冊は、出版元の柏樹社が倒産し、絶版となったが、たにぐち書店の谷口社長のお陰で、たにぐち書店から復刊されている。
なお、柏樹社から出ていた、まるずみかずお氏の『絵で見る操体』、池袋のリブロで見て、丁度持ち合わせがなく買うのを忘れていたら、入手困難となった(汗)本は迷わず買ったほうがいいという教訓。
操体法の治療と予防。この本は池田書店から出ていた『腰痛の治療と予防』を改訂したものである。これも谷口社長のお陰である。考えたら我々操体関係者はたにぐち書店には大いにお世話になっているのだ。ありがたいことだ。
もしも何かの際には、たにぐち書店にお願いするしかないか??
しかし、私は「生体の歪みを正す」を持っているからいいものの、まだ持っていない方は何とかして探して下さい。
幸運をお祈りします。