高校生の時、父に頼んで『森茉莉全集』を買って貰った。装丁がウィリアム・モリスのデザインを模したもので、今でも大事にしている。シングルに戻った際、それまで持っていた蔵書は殆ど処分(編集工学研究所に送った記憶あり)したのだが、これだけは手元に置いてある。
私が日本の小説の中で一番好きなのは、何かと聞かれたら、森茉莉の『甘い蜜の部屋』を挙げるだろう。1年か2年に一度、絶対読み返すから、多分そうなのだ。これは泉鏡花賞を受賞している。
何がいいのかと聞かれると一言では言えないのだが敢えて言うならば『魔性』を無意識のうちに振りまく美少女藻羅(モイラ)の美貌と身体に迷う、男の姿である。そして娘を常に見守る、天使と悪魔が同居しているような、父親が非常に魅力的だ。
端的に言えば、男が苦悶する話である(笑)

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『甘い蜜』は私小説(っぽい)のだが、森茉莉のエッセイもなかなか良い。その中でも代表的なのが『父の帽子』と『贅沢貧乏』ではないかと思う。『父の帽子』は、父、森鴎外との思い出を綴ったもの、「贅沢貧乏」は下北沢のアパルトマン(アパート)で、黒猫ジュリエットと白熱灯が昼夜こうこうと輝く中で、硝子や花、値段に関係なく自分の美意識にあったものに囲まれた暮らしを綴ったものである。はたから見ると、また彼女の幼児期から若い頃にかけてのお嬢様暮らしから比べると、格段な貧乏暮らしなのだが、輸入もののアルモンド・チョコレェト(アーモンドチョコレートですね)とか、冷やした紅茶(アイスティー)を欠かさないとか、コロッケもラードでソテーしてから食べるとか、決して『心根』まで貧乏にはなっていないのである。