- 作者: 橘玲
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/09/28
- メディア: 単行本
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「伽藍を捨ててバザールに向かえ!恐竜の尻尾の中に頭を探せ!」
帯に書かれている言葉である。何だかさっぱり分からないが、最後まで読むと「ははあ」と納得出来る。
キーワードは「自己啓発」である。
自己啓発とは
?能力は開発できる
?わたしは変われる
?他人を操れる
?幸福になれる
という福音を持っているのだそうだ。
作者は「自己啓発は正しいけれど間違っている」という。何故自己啓発がこれほど僕たちを惹きつけ、けっきょくは裏切るのか。僕たちはどうしていつも不幸なのか、その理由を説明している。
著者は、この本で「能力は開発できない」と主張している。
しかし悲観することはない。ありのままの自分でも成功を手にする哲学がある、と著者は言う。
それが
伽藍を捨ててバザールに向かえ!恐竜の尻尾の中に頭を探せ!
という言葉の中に隠されている。
ワーキングプア、無縁社会、孤独死、引きこもり、自殺者年間3万人超など、気がつけば世界はとてつもなく残酷。だが「やればできる」という自己啓発ではこの残酷な世界を生き延びることはできない。必要なのは「やってもできない」」という事実を受け入れ、それでも幸福を手に入れる新しい成功哲学である。
一時期、勝間和代氏と香山リカ氏のバトルが話題になった。私はどちらも面白いと思っているので、あまり気にしなかったのだが、何故このバトルが起きたのかよく分かった。二人とも「自立」という目標を共有している。何故なら市場経済では自分でお金を稼がなければ夫や社会、国家に依存して生きるしかない。勝間氏は幸せになる近道として「努力をすると、より簡単に幸せになれるということです」。
勝間氏の作戦は、「努力は誰でもできる、努力できないのは仕組みや方法が間違っているから」というのが前提だ。つまり、努力できないのは自己責任であるということになる。
香山氏は頑張ってもダメな人は更に頑張るしかなく、失敗と自己懲罰の蟻地獄に陥るのだ、と言っている。鬱病の患者に「頑張れ」という言葉が禁句なのを良く知っている精神科医だからではないか。
勝間氏は自分が努力して幸せになって、その方法を公開し「みんなで幸せになりましょう」と言っているだけなのだが。
操体的に考えると、頑張っても頑張れない人も、絶対的に救われている(救い)。しかし最初から努力も何もせずに結果的に「自業自得」になるのは、相対的(報い)である。
香山氏は勝間氏の主張(確かに経済的自立が幸せに繋がるのは正論である)の中に「救い」が見当たらないので、不快感を感じたのではないだろうかと思う。
また、この本の中には「好きを仕事に」する残酷さも書かれている。例に挙がっているのは、バイク便のライダー達の「不都合な真実」の話だ。
「雇われる事」をやめて個人でビジネスをすることを、フリーエージェントという。フリーエージェントが法人化したものが、マイクロ法人だ。ロングテール時代のビジネスの主役は、恐竜みたいな大企業ではなく、フリーエージェントとマイクロ法人になるだろう。
自営業はフリーエージェントだ。それがマイクロ法人化する。「好きを仕事に」が「不都合な真実」にならないように先手を打っておきたい。